強い日射しの中"めまいがする""手足がつる""吐き気がする"そんな症状になったことはありませんか?それは熱中症のサインかもしれません。
熱中症は脳血流低下による熱失神、塩分不足による熱けいれん、脱水による熱疲労、異常な体温の上昇による熱射病の総称です。
重症な病型である熱射病では生死に関わるため、迅速な対処が必要です。熱射病の特徴は高体温と意識障害です。熱射病が疑われれば、体を冷やしながら救急車を要請します。高体温や意識障害がなければ、涼しい場所で水分・塩分を摂取させます。これらの処置で症状が改善しない、あるいは嘔吐などで水が飲めない場合には医療機関へ搬送します。
暑い中で無理をしてもトレーニングの質が低下して、効果も得られません。暑さ対策で熱中症を予防することは、トレーニング効果を上げることに通じます。
近年、熱中症による搬送者数は増加傾向にあります。かつては炭鉱、製鉄所などの労働現場での事故が問題になっていました。しかし最近では、スポーツ活動中や日常生活における熱中症も問題になっています。
学校管理下の熱中症はスポーツ活動で多く発生しています。熱中症の発生は男女であまり差はありませんが、亡くなった生徒の多くは男性です。
これは、男性が暑さに弱いというよりも、"激しい運動をしている"または"苦しくても無理して限界まで頑張る"といった傾向があるからと考えられます。
熱中症の事故が多い野球、ラグビー、柔道、剣道には、男性の競技者が多いということも影響しているのかもしれません。
熱中症死亡の7割は肥満者であり、個人の要因として体型が重要です。肥満気味の人は、おもりを背負って競技しているのと同じですから、同じ運動をしても身体への負荷が大きく、体温も上昇しやすくなるからです。
運動中の水分補給については、以前は具体的な水分補給のしかたの目安を日本体育協会が「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」のなかで指針として提示していました。
しかし最近では、1時間の適正量など具体的な数値の提示は控えています。それは、体重、運動方法、天候が違えば、水分を補給する量も異なるからです。運動前後の体重減少2%以内が目安となります。
かつてはスポーツ選手に「練習中は水を飲むな」といった指導をする時代もありましたが、言うまでもなく、これは間違った認識です。
これとは反対に、長時間にわたり水だけを大量に飲みすぎると、水中毒を起こすことがあります。したがって、時間を決めて水分補給をするよりも、喉の渇きに応じて自由に水分補給ができる環境をつくり、水だけでなくナトリウムも一緒に摂取することが重要です。
コンディショニング ワンポイント
水分補給は熱中症の予防だけでなく、トレーニング効果にも影響します。
喉の渇きに応じてこまめな水分補給が大切です。
運動をすると強度に応じて体内で大量の熱が発生します。したがって、熱中症を防ぐためにもっとも注意すべきことは、運動のしかたです。
水分補給はもちろん重要です。しかし、水分さえ補給していれば防げる、と安心してしまうのは良くありません。身体に過度の負荷がかかっていたら、熱中症のリスクは当然高まります。
中高生の死亡事故例を見ると、最も多い学年は高校1年生です。この年代は成長の個人差が大きく、体力差のある上級生と同じ練習メニューを行うことで、身体に限界以上の負荷が掛かってしまっていると考えられます。それぞれの体力に配慮して運動の強度を考え、トレーニングや試合中の事故を避けるようにしなければいけません。
「ヘロヘロになるまで頑張ることが良い練習である」という感覚は改めましょう。
猛暑に無理をしてヘロヘロになるとコンディションが悪くなり、トレーニングの質は下がります。コンディションを最高潮にして臨む実戦とは程遠い状態で練習をしても、それが実戦で生かされるとは思えません。実戦のためにトレーニングをするのですから、ベストに近いコンディションでするべきです。
そして何よりも身体が消耗すれば、当然ケガをする確率も高まります。休憩をしっかり取り入れながら水分も補給して、質の高い練習をした方が効果的なはずです。
様々なコンディションでの試合を想定して『疲れた状態でどれだけパフォーマンスを発揮できるか』という練習を否定するわけではありません。
試合は季節や時間帯などに左右され、常に快適な環境で行われる訳ではないので、過酷な環境を想定した練習に取り組む必要もあるでしょう。
しかし、猛暑や日差しが照りつけるような過酷な環境で過度な練習を行うと、死亡事故といった最悪の事態につながる可能性もあるので、おすすめすることはできません。そういった練習に取り組む場合は、涼しい時期や空調が整備された環境で行うべきです。
コンディショニング ワンポイント
熱中症は、正しい対策を知っていれば防ぐことができます。練習方法や練習環境を見極め、
選手の体調をよく観察して、ブカツでの事故を未然に防ぎましょう。
熱中症予防の原則は日本体育協会が「熱中症予防5ヵ条」としてまとめています。
です。練習時間はなるべく暑くない時間帯に設定すること、練習の合間に積極的に体を冷やすことも重要です。
この中で最も重要なのは、環境条件に応じた運動のやり方です。どういう環境条件でどのように運動するかは、日本体育協会が「熱中症予防運動指針」を示しています。環境条件は気温だけでなく、湿度、輻射熱も関係するため、これらを総合したWBGT(湿球・黒球温度)という指標で評価します。
WBGT25℃以上では少なくとも30分に1回は休憩をとります。WBGT28℃以上ではさらに頻繁に休憩を取り、WBGT31℃以上では運動は中止します。
暑さへの耐性は個人差が大きく、年齢、肥満度、持久的体力、暑さへの慣れなどが関係します。また、体調によっても変わってきます。環境条件に応じた運動のやり方にも個人差がありますが、「熱中症予防運動指針」は平均的な人を想定しています。
大事なのは、暑い中でも具合悪くなることがなく、また、トレーニングの質が保てているのか、です。個人差や体調に配慮し、選手の状態を観察することが重要です。練習で具合が悪くなる人がでたり、トレーニングの質が保てていないのであれば、休憩を増やす、運動強度を下げる、など練習のやり方を変える必要があります。
地球温暖化で夏の気温が高くなっています。日中の最高気温が40度を越えるような事態になれば、昼間の屋外ではスポーツはできなくなります。そうなれば、気温が下がる夜間に夜間照明をつけてやるか、室内なら冷房をつけてやるしかなくなるでしょう。今でも、室内での練習が多い柔道や剣道などは、冷房をつければ熱中症による事故は防げると思います。
コンディショニング ワンポイント
重要なのは指導者の方が、練習環境を見極めて判断すること。
選手を強く育てることと、選手の身体を守ることは同義です。